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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
Read 三国志(五) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 325,249 characters · 653 screens
夫人はふたたび車から降りて追手の大将どもを待つ。その姿を目がけ、陳武以下の四将は馬に鞭を加えてこれへ駈けこんで来た。
「何ですっ、その無礼な態は。馬を降りなさい!」
凛々たる夫人の一声を浴びて、四人は思わず馬から飛び降りた。そして叉手の礼をとって起立していると、夫人は真白な指をきっと四人の胸にさして、
「おまえ方は、緑林の徒か、江上の舟賊か。呉侯の臣ならばそんな不作法な真似をするわけがない。主君の妹に対してする礼儀を知らないのか。お坐りっ。ひざまずいて拝礼をするものです!」
四人の大将は、彼女の威と、絶倫な美と、その理に打たれて、不承不承、大地に膝をつき叉手を頭の上にあげて最大な敬礼をした。
ようやく、すこし面を和らげて、それから夫人が訊ねた。
「いったい、何しに、またこれへ来たんですか」
潘璋がいった。
「お迎えのためにです」
と、夫人は首を振った。
「呉へは帰りません」
「でも、呉侯の御命ですぞ」
「わたし達は、母のゆるしによって城を出たのです。孝行な兄孫権が、母の意に逆らうわけはない。おまえ方は何か聞きちがえて来たのでしょう」
「いやいや。呉侯の仰せには、首にしてもとの厳命でした」