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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
Read 三国志(五) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 325,249 characters · 653 screens
「だが、その劉玄徳とは、今日までなんの交渉も持っていない。彼も漢の景帝の流れを汲む同族とはかねて聞いていたが」
「ですから、この際、鄭重なる書簡をいたせば、玄徳としても、欣然友交国の誼みを結ぶにちがいありません」
「では、その使いには、誰をつかわしたらよいと思う」
「孟達、法正。この二人に超えるものはないでしょう」
するとこの時、帳の外から大声して呼ばわった者がある。
「ご主君っ、耳に蓋し給え。張松の申すことなどに引かされたら、この国四十一州は他人の物になりますぞ」
驚いて振り向くと黄権、字は公衡という者、額に汗しながら入ってきた。
劉璋は眉をしかめて、
「なぜ、そんなことを云う。たしなめ」
と、一喝した。
黄権は屈せず、面を冒してなお云った。
「君、知り給わずや。当時玄徳といえば、曹操だも恐るる人物。寛仁よく人を馴ずけ、左右に鳳龍二軍師あり、幕下に関羽、張飛、趙雲の輩あり、もしこれを蜀に迎え入れたら、人心たちまち彼にあらんも知らず。国に二人の主なし。累卵の危機を招くは必然でしょう。――それに張松は魏に使いしながら、帰途は荊州をまわって来たという取沙汰もある。