Japanese reading practice

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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

Read 五瓣の椿 (ごべんのつばき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,721 characters · 296 screens

Aozora Bunko

おしのは静かに眼をあいて、父のほうを見た、「小さな池の側に、椿が咲いていたのね、お父つぁん、その池の側へいっていて下さいな、あたしもすぐにゆくわ、あたし道がわからないから、迎えに来てちょうだいね」

おしのは立ちあがろうとした。ながいあいだ坐りづめだったので、すぐには立てず、片手を突いて足の痺れの去るのを待った。するとその畳に突いた手が、銀の平打の釵に触れた。さっきおそのの髪から落ちたものである、おしのはその釵をじっとみつめた。その顔はまた仮面のように硬ばり、上唇が少しずつ捲れて、歯が剥きだされた。――おしのは釵を取り、右手に持ち替えて立った。奥の六帖はずっと前から静かになっている、おしのは襖をあけて中廊下へ出、そうして六帖の襖をあけた。

炬燵にはいったまま、おそのと菊太郎は抱きあって寝ていた。飲み食いのあとは散らかったままだし、二人の頭のところには、燗徳利と湯呑がころげていた。おそのは座蒲団を折って枕にし、菊太郎はおそのの腕を枕にしていた。おそのは片手で菊太郎を抱き、相手の顔に自分の顔を重ねるようにして、口をあいて眠っていた。――旅の疲れと酔いとで、二人とも正体をなくしているらしい、菊太郎は高い鼾をかいていた。