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あおいはらふじんのたいつり
垢石釣游記
佐藤 垢石
Read 垢石釣游記 (あおいはらふじんのたいつり) by 佐藤 垢石 (さとうこうせき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 46,298 characters · 100 screens
五
関西人の誇る瀬戸鯛もこれには過ぎまい。
若し、生きているままの鯛を庖丁に裁いて、食膳に載せれば饌書が語る、
従二讃豫一過二鳴門一而東者額上作レ瘤是曰二峡鯛一
の文字に象徴された荒海から産卵に来る鯛など、一笑に附してしまえよう。だが、江戸時代から最近に至るまで交通は不便であったし、漁法も拙劣であったので、東京湾口の鯛は大衆の口を贅する程、市井の巷へ現れなかった。
ところが、今でも東京湾口の鯛は昔と同じように沢山棲んでいる。舟航も便になった。漁法も巧みになった。今では生きているままの大鯛が舟の魚槽に泳ぎながら、築地の河岸へ運ばれて来る。
五
房総半島と、三浦半島が相擁した東京湾口の海は清碧である。東京湾口と言うのは、三浦半島側の観音崎から太平洋を指し、鴨居、浦賀、九里浜、下浦、剣ヶ崎の鼻、三崎前の城ヶ島の突端まで、房総半島側は富津岬から大貫、湊、竹岡、金谷、鋸山の裾を南方へ走り、那古を越えて洲崎までの、東京湾の袋の口の水道を指すのである。
湾口へは、遠い南の海から、暖かい黒潮が藍青色の、凄いほど澄んだ海水を送って来る。上げ潮には湾内へ激しく流れ込み、下げ潮には疾風の如くに、外洋へ注ぎ出す。