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だいぼさつとうげ
大菩薩峠5
中里 介山
Read 大菩薩峠5 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,120 characters · 516 screens
「お帰りなさいませ」
そこへ帰って来たのは兵馬であります。お松は慌てて、あの艶めかしい手紙を自分の懐ろへ押入れて、兵馬の前へ丁寧にお辞儀をしながら、そっと涙を隠しました。
「そうしておいて下さい」
「あの、兵馬様、今日はお留守中に、お客様が二人おいでになりました」
「来客が二人、そうしてそれは誰と誰?」
「一人は、いつもの金助さんでございますが、もう一人は、久松町辺の刀屋だとか申しておりました」
「ははあ、刀屋が来ましたか。それから、金助は何と言いました」
「あの方は何とも申しません、ただ、わたしに向って、このごろはさだめてお淋しうございましょうと、笑いながら言いましただけでございます」
こう言ってお松は、伏目になりました。
「ははあ……何を言うのかあいつの言うことは、取留まったものではない」
兵馬はやはり、淋しき笑いに紛らわそうとするらしいが、
「兵馬様」
そのときお松は、屹と心を取り直したように面を上げて、兵馬の名を呼びました。
「何でござる」
「あなた様は、このごろ、どちらの方へ多くお出かけになりまする」
「何を改まって、そのようなことをおたずねなさる」
「いいえ、わたくしは、それをお伺い致さねばならないほど、このごろは、ほんとに気が弱くなってしまいました」