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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Read 宮本武蔵 (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,809 characters · 369 screens
「――お通さん、まだ?」
館の内では、
「今すぐに行きますよ」
そのお通も、すっかり支度はすんでいたのであるが、わずかふた月でも起臥をともにして、しかもよい姉様のように親しんでいた人を、旅に奪われるとなると、生徒の巫女たちは、一抹の哀愁にとらわれて、なかなかお通を離さないのである。
「――また参りますからね、皆さんもご機嫌よう」
果たして、もういちど来る日があるだろうか、お通は、嘘をついている気がする。
巫女たちのうちには、すすり泣く者さえあって、一人が、五十鈴川の神橋のたもとまで送って行こうというと、一も二もなく気が揃って、お通を囲みながら外へ出て来た。
「あれ?」
見ると、あんなに急いていた城太郎がいないのである。小さい唇へ手をかざして、巫女たちが、
「城太さあん」
「城太さあん」
お通は、彼の習性をよく知っているので、そう心配はせず、
「きっと焦れったがって、神橋のほうへ、独りで先に行ってしまったんでしょう」
「意地悪ッ子ね」
そして一人が彼女の顔をのぞき上げながら、
「あの子、お師匠さまの子?」
と、訊いた。
お通は笑えなかった。思わず真面目になって、
「何ですって、あの城太さんが私の子かというんですか。