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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Read 宮本武蔵 (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,809 characters · 369 screens
「――もう安心おし」
朱実は初めて、
「ありがとうございました」
髪のみだれや、着物のみだれを直して、まだ脅えている眼が、夜を見まわした。
「どこじゃの、おぬし」
「家ですか。……家はあの……家はあの……」
朱実は、にわかにすすり泣きして、両手で顔を蔽ってしまう。
わけを訊かれても、彼女は正直にみな話せなかった。半分は嘘をいい、半分はほんとのことをいい、そしてまたすすり泣いた。
母親がちがうことだの、その母親が自分の体を金に換えようとしたことだの――住吉からここまで逃げて来た途中であるということだの――その程度は打ち明けて、
「わたしもう、死んだって家へ帰らないつもりです。……ずいぶん我慢して来たんですもの。恥をいえば、小さい時には、戦の後の死骸から、剥盗りまでさせられたことがあるんです」
憎い清十郎よりも、さっきの赤壁八十馬より、朱実は、養母のお甲が憎くなった。急にその憎さが骨をふるわして来て、また、よよと両手の裡で泣くのだった。
心猿
一
ちょうど阿弥陀ヶ峰の真下にあたるところで、清水寺の鐘も近く聞え、歌ノ中山と鳥部ノ山にかこまれて、ここの小さい谷間は静かでもあり、またから風の当たる寒さもよほどちがう。