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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Read 宮本武蔵 (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,809 characters · 369 screens
――おやすみ」
「だいじょうぶでしょうか」
「山猿ではない、どこかの飼猿が逃げて来たのじゃろ、なに心配があるものか。――夜具はそれで寒くはないか」
「……いいえ」
「寝たがよい、寝たがよい、風邪は静かに寝ていさえすれば、なおる」
鍋へ、粉を入れ、水を入れ、そしてぐるぐる箸の先で掻きまわす。
欠け七輪に、炭火はかっかっとおこっている。鍋をかけておいて、その間に、丹左は葱を刻みはじめた。
まな板は、この御堂にあった古机、庖丁は小柄の錆びたものらしい。刻んだ葱は、手も洗わずに木皿へうつし、その後を拭けばそのまま、次には膳にかわるのである。
クツクツと鍋の湯の沸る音が、だんだんこの中を暖めて来た。枯れ木のような膝をかかえ込み、丹左の飢えた眼が、湯の泡を見ていた。人間の至楽はこの鍋の中に尽きるといわないばかりに、その煮えるのが楽しみらしく見える。
いつもの晩のように、清水寺のほうで鐘が聞える。もう寒行はすんで初春もちかいが、師走が押しつまると、人の心の患いが多いとみえ、夜もすがら鰐口をふる音だの、お籠りをする者の詠歌のあわれな声が絶えない。
(……わしは、わし自身の科をうけ、こうして、罪障の償いをしているようなものだが、城太郎はどうしているかなあ? ……。