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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
電光形の足場は下るに従って少しずつ南へ振れて行くように思われたが、終には一段高く積った平な雪堤の上に出た、昨日大窓から見下した大懸崖の下に来たのであろうと思う、雪堤はいつか南に向って極めて緩かな登りとなっている、此附近の雪量の多いことは実に驚く可きものであった、雪堤の端に杖を立てて下を覗き込んでいた南日君は、近づく私を待ちうけて「この雪を見給え、壮んじゃないか」と顎を突き出して「如何だい」といったような顔付をする、いつか中央気象台の岡田博士が「内地で最も降雪量の多い所は越中劒岳の麓で、二丈も三丈も積る」と話した新聞記事を読んだことがあるが、今七月下旬の盛夏の候でさえ其位は残っているのであるから、三、四月の頃はこの倍以上もあろうと思われる。私は「うん、壮んだな」と答えて暫く其壮観に見惚れていた。この前劒へ登った時連れて行った人夫の春蔵というのが、よく「鼻頭かたれてあるくな」と言っては私達を笑せたが、今日程続けざまに鼻頭かたれて歩いたことは曾て覚えのないことだ。そして鼻頭かたれて歩くことも思ったより気持の好いものであると考えた。恐らくわが生涯の憧憬の対象である山や谷は、登山者本然の慾望に駆られ、望む可くして容易に立ち入ることを許されない域にまで侵入することを大目に見て置いて、益其執念の募り行くように、そっと