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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
鼻頭かたったのではあるまいか。果して私は三たび大地を揺がして近く耳元に響いたダイナマイトの爆音に対してさえ、またしても鼻頭かたれたと痛快に感じた程とりのぼせていたことを後で気が付いた。
右から頽れ落つる急な雪渓を横切って、山腹に造られた新らしい道の傍の新らしい小屋の前に荷を卸して休む、昨日白兀の頂上から瞰下ろした道であろうが、大窓の雪渓から湧き上る濃い霧の幕は、対岸の山々を深く閉じ籠めて、其処に今どのような神秘劇が行われているのか、舞台の片端をだに覗き見ることを許さなかった、時折薄い霧の翼が汗ばんだ私達の額を撫でながら音もなく悠々と舞い連れて行く。
此道は小黒部鉱山の事務所まで山の等高線に沿うて殆ど平坦に通じている。おどろの霧の中から虚気た顔をして出て来た私達は、薄日を浴びて暖かい黄な感じのする闊葉樹林の穏かな空気を一口吸っては、身体中に鬱積した灰色の毒素を吻とゆるやかに吐き出した。頭が静まると気が軽くなって足も自ずと早くなる。山の鼻を幾度か廻って二度三度雪渓を横切った、最初の一つは五、六丈の瀑が雪の洞穴からたぎり落ちて、また雪の洞穴に隠れる前に思うさま躍り狂うている姿を見せた。