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げんじゅつてんまたろう
幻術天魔太郎
野村 胡堂
Read 幻術天魔太郎 (げんじゅつてんまたろう) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,616 characters · 90 screens
小僧の虎吉が腰からぬいたのは、一管のシノ笛でした。葛飾にそだって、父親はゆうめいなお神楽師、虎吉は小さいときから神楽笛を吹きなれて、それがまた、非凡の腕まえだったのです。父親はこの子の才気をおしんで、泉田筑後に弟子いりさせ、ゆくゆくは、りっぱな棟梁にする気でしたが、好きな笛は肌身をはなさず、この嵐のなかの大活動にも、こしに一管の笛だけは忘れなかったのです。
「それはおもしろかろう、やって見るがいい」
天魔太郎はさんせいすると、雨にぬれた歌口をそのまま、節おもしろく神楽笛を吹きならすのでした。
うるしの闇、それを従横に断ちわるいなずま。雨と風がいっしょになって、降り、吹き、すさぶなかを、道化た神楽歌の笛の旋律が、ピーヒョロ、ピーヒョロ、いとものどかにひびきわたります。
牢番どもは、それをしらないではありませんが、あまりにもうれつな嵐におそれて外へは顔をださず、それに風雨にちぎれる笛の音を、遠くから聞えてくるものと思いこんで、さいわいひとりのとがめる者もありません。
「ここ、ここよ、虎吉ではないか」
とある牢格子の中から、人のよぶ声が聞えます。
「あ、奥さま」