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げんじゅつてんまたろう
幻術天魔太郎
野村 胡堂
Read 幻術天魔太郎 (げんじゅつてんまたろう) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,616 characters · 90 screens
「?」
「どうだ、青柳又八郎どの。そんなことであたら命をすてるより、生きながらえて腕をみがき、きょうのはじをそそぐ気はないか」
猫間犬丸は、熱心な調子でこういいきるのです。
まったく、武げいや幻術に負けて、いちいち腹を切るのはばかげた考えで、体面にこだわらずに、家と禄をすてて、技をみがくほうが、どんなに男らしいかわかりません。
「では、どうすればよいのだ」
青柳又八郎は、脇差をサヤにおさめて、むきなおりました。
「天魔太郎どのにあって見るがいい。あれは非常な人物だ」
五月七日は、三代将軍家光の日光ご社参、これはまた大へんな行事でした。家光の行列のとおる道々は、まえの日からの煙どめで、ごはんをたくことはもちろん、病人があっても、くすりをせんじることもできなかったというげんじゅうさです。
そのうえ、往来はぜんぶとめられ道すじの家々は戸をしめさせて、すき間やフシ穴からのぞかないように、目ばりをしたというさわぎ、まことにいまの人には考えられないほどの暴君ぶりです。
その行列は、ツユ払い(先頭)からさいごのひとりまで、二里三里にもおよぶ長さ、美々しくいかめしく、ものものしいなかに、将軍家光、金銀をちりばめたお召かごに乗って、千住の大橋にかかりました。