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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
Read 悪魔の紋章 (あくまのもんしょう) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,280 characters · 301 screens
夕刻から友達を訪問するといって出かけた次女の雪子さんが、十時を過ぎ十一時を過ぎ、深夜となっても帰らなかった。友達の家は元より、心当りという心当りを電話や使いで探し廻ったが、友達の家を辞去したのが八時頃と分ったばかりで、その後の消息は杳として知れなかった。
不安の一夜が明けて翌朝、麻布区の高台にある川手邸は、急を聞いて馳せつけた親戚知己の人々で、広い邸内も一方ならぬ混雑を呈していたが、その中に、第一号応接室の洋間には、中村捜査係長と宗像博士と主人川手庄太郎氏の三人が、青ざめた顔を見合せて、善後の処置を協議していた。係長と博士とは、事件の報告を受けると、取るものも取りあえず、早朝から川手邸を訪問したのである。
川手氏は半白の頭髪を五分刈りにして、半白の口髭を貯え、濃い眉、大きな目、デップリと太った、如何にも重役型の紳士であったが、いつも艶々と赤らんでいる豊頬も、今日は色を失っているように見えた。
同氏は、一年程前夫人に先立たれたまま、後添いも娶らず、二人の娘と水入らずの家庭を楽しんでいたのだが、その愛嬢の一人が、何物とも知れぬ殺人鬼の手中に奪い去られたかと思うと、流石の川手氏も狼狽しないではいられなかった。