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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
と少し訛る。
「はい。」
むかし権三は油壺。鰊蔵から出たよな男に、爺さんは、きょとんとする。
羆は件の横睨みで、
「おい、帰るのかあ。」
「家へかね。」
「うむ。」と頷く。
「帰りますよ、はい。」
「帰ると……ふん。どこか道寄りはせんのですかい。」と、悪く横柄な癖に時々変徹に丁寧なり。
「道寄りとおっしゃりますと?……」
「何よ、あれだ、お前、今あすこで。」
と人指一本、毛の中へちょいと出し、
「あれよ、芸者と少い男と三人連に逢うたでしょうが。」
「はい、はい。」と大な口を開けて続けざまに頷きながら、目はかえって半ば閉じて、分別したは老功也。
「知ってるだろうが、姉さんはお孝と云うのだ。少い妓はお千世よ。」
「さようでございます、はい。」となお胡散らしく薄目で見上げる。
「阿爺どのは、どうやら大分懇意らしい様子ですな。」
「ええ、いいえ、些少の。何、お前さま。何かその、私に用事で。」
「火を一つ貸してくれ。」
と云う、煙草より前に、蔵造りの暗い方へ、背を附着け、ずんぐりと小溝を股に挟んで大きく蹲み、帽子の中から、ぎろぎろと四辺を見た。が、落こぼれたような影もまばらで、開いているのは、地蔵尊の門と、隣家の煙草屋の店ぐらいに過ぎなかった。