Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Read 春いくたび (はるいくたび) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 70,094 characters · 142 screens
……少しも泣かなかった、少しも、……信之助が死んだという青年の言葉は、なにかしら空々しいことのように感じられ、まるで知らぬ世界の知らぬ人の話としか受取れなかった。そして、
――きっと帰る、必ず帰って来る。
斯うして約束すると、刀の柄を叩きながら云った信之助の声の方が、青年の話よりも強く鮮かに、もっと生々して耳に蘇って来た。
その冬、初めての雪が降りだした頃、香苗の家は遂に倒産した。……明日はその屋敷を立退かなければならぬという、その前夜のことである。庭先に激しい物音がしたので、なにごとかと出て見ると、三十尺も高く伸びていた辛夷の木が倒れたのであった。
香苗は自分の部屋の窓を明けてそれを見た、枝を張り過ぎた辛夷は、雪の重みを支え兼ねて根元から折れたのである、……香苗はそれを見たとたんに恐しい悲鳴をあげながらうち伏した。
「信之助さまが、信之助さまが」
声をふり絞って狂おしく叫んだ。
父や母や、別宴のために集まっていた親族の人々が驚いて駆けつけた。……香苗は身もだえをし、裂けるような声で信之助の名を呼びながら泣いた。
また会う日のために、二人が取交した約束の花、その辛夷が倒れたのを見て、香苗は信之助の死が本当だったということを感じたのである、……いや、雪の上に倒れている辛夷の木が、そのまま信之助の死体のように