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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Read 春いくたび (はるいくたび) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 70,094 characters · 142 screens
四
大音声によばわりつつ、猛然と三好勢のまっただ中へ斬りこんだ。――それにつづく者三、四十騎、どっとばかり面もふらず、殺到する。見るより元親は、
「おおやったな!」
と馬上にのび上がり、「返せ者ども、おくれて卑怯者の汚名をのこすな、元親みずから冥途の先がけしようぞ、つづけ!」
わめき、わめき、馬をあおってつっこんだ。
大将みずから決死の突撃、なんぞ一軍奮起せざらんや。くずれたった軍兵も思わず踏み止まると、こんどは必死の勢いで、喊声すさまじく猛烈な逆襲をはじめた。
四
勝ちにのった三好勢は、とつぜんの逆襲に、みごと不意をくらって、陣形を立て直すひまもなく、ぎゃくにくずれたった。
元親は馬上に槍をふるって、右に左に敵兵をつきふせながら遮二無二突進する、ふと見れば――かなた乱軍のなかに、あの鬼とよばれた赤松剛兵衛が、じまんの樫棒を水車のごとくふりまわしつつ、悪鬼のごとく奮戦している。
「剛兵衛めが、やりおる、やりおる」
思わずにっこりとして目をかえせば、右手にはかの犀の角の兜きた武者が、縦横無尽に馬を乗りまわしている、見よ! 彼の馬のゆくところ蹄をもって雑兵をけちらし、彼の太刀のひらめくところ、血けむり虹のごとく立ちのぼって敵兵の屍をつむ、壮絶まさに鬼神の勇である。