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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Read 春いくたび (はるいくたび) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 70,094 characters · 142 screens
となり、『足なめ伝九』となった。
「今度もし戦争があったら、伝九郎は退却の一番乗りをやるぞ」
「なあに敵の足をなめて降参するさ」
「どっちにしても腰ぬけの見本ができよう」
と勝手ほうだいにののしりたてた。
しかし当の別部伝九郎は、そんなうわさもきくかきかぬか、あいかわらずむっつりとして、べつに世間を恥じるようすもなく勤めていた。――かくてさらに半年あまり、天正十年六月の初めとなった。
そのころ、阿波、讃岐は右大将織田信長の領地であって、三好笑厳がこれをあずかっていた。土佐の元親も、勢いはあったが、英傑信長の威勢にはまだ遠くおよばず、いつも三好におされ気味だった。
これが、元親はじめ長曾我部一党にとっては、骨身にしみてくやしいことだったのだ。
さて、六月十一日の夜のこと。馬をとばして浦戸の城へかけつけた使者によって、右大将信長が、京都本能寺で明智光秀のためにほろぼされたことが、元親につたえられた。
「よし、今こそ百年の大望を達すべき時だ、土佐に合わせて、阿波、讃岐、伊予、四国全部をわが手におさめる日がきたぞ」
と、ふるいたった長曾我部の軍勢は、たちまち阿波の国になだれ入って、かたっぱしから出城を攻め落とし、とうとう一気に三好笑厳の本城へと、攻めかかった。