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しゅんでい
春泥・三の酉
久保田 万太郎
Read 春泥・三の酉 (しゅんでい) by 久保田 万太郎 (くぼたまんたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,075 characters · 173 screens
以前だったら、毎日のように、それこそ喜んで常びッたりになったに違いない。……が、御新造のいなくなったいまとなっては、たのむ木蔭はお嬢さん一人。――以前にましていよ/\かれの足は遠くなった。
だから、今日の訪問は、実に夏以来の三四ヶ月ぶりである。――いくら何んでもあんまり義理がわるすぎる、今日こそ一つ、しみ/″\あやまってやれ、ことによったら思うさま久しぶりに愚痴もこぼしてやれ……そう思ってかれは、その矢の倉の、半西洋の、手勝手のわるい、取ッつき悪い感じの玄関に立った。そうして景気よくまず呼鈴を鳴らした。――が、出て来たのは顔を知らない女中で、先生はお留守でございます……膠もなくそういった。
「じゃァお嬢さんは?」
「お嬢さまもお留守でございます。」
「どこへおいでになった?」
「お嬢さまは今日はお寺詣りにおいでになりました。」
「と、おきたさんもいないのか?」
「へえ、おいでになりません。」
おきたというのはむかしからいるお嬢さん附の古い女中である。この女中がいれば誰がいなくっても「まァ西巻さん」と出て来てすぐ恰好をつけてくれる。――でなくっても、いゝえ、押していえば、書生でも下男衆でもだれか話の分るものがいるに違いない。