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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう
本州横断 癇癪徒歩旅行
押川 春浪
Read 本州横断 癇癪徒歩旅行 (ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう) by 押川 春浪 (おしかわしゅんろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 22,749 characters · 45 screens
(一一)先登の自慢
ああら有難し、これも腹式呼吸のお陰、強健術実行の賜物ぞと、勇気日頃に百倍し、半身裸体に雨を浴びてぞ突進する。こんな場合にいつも先陣を争う髯将軍はいかにせしぞと後に聴けば、将軍、剛力の遅々が癪に触って堪らず、暫時叱督励していた為に、思わず大いに遅れたという事だ。
だんだん山道を高く登れば、四方に聳ゆる群山は呼べば応えんばかり、今まで遥か高く見えた山々の絶頂も、いつの間にか視線と平行になり、更に登ればはや眼下に見えるようになる。その愉快なることいわん方なく、膝栗毛の進みもますます速く、来た処は、音に名高き胸突き八丁の登り口。日ははや暮れかかり、渓谷も森林も寂寞として、真に深山の面影がある。
胸突き八丁の登り口に近く、青い苔の生した断崖からは、金性水と呼ぶ清泉が滾々と瀑布のごとく谷間に流れ落ちている。これぞ八溝川の水源で、この細流に四方の水が合し、滔々として常州の山野を流れ行くのだ。
(一一)先登の自慢
吾輩と津川五郎子とは、百鯨の長川を吸うがごとくガブガブ金性水を飲み、太鼓のように膨れた水腹を抱えて胸突き八丁を登って行く。頂上まで殆ど一直線に付けられた巌石の道で、西側には老杉亭々として昼なお暗く、なるほど道の険しい事は数歩前の巌角の胸を突かんばかり、胸突き八丁の名も道理だ。