Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
Read 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,260 characters · 418 screens
それだけが――何かにつけ老公のことのみが、気懸りらしく、そう問い返した。
「いや、あれから、すこしばかりお寝みになった。そしてもう常のごとく、お学問所に坐しておられるが」
「……そうか」
すこし平静に返って、
「文八。わしの衣服を、あれまで持って来てくれぬか。このすがたでは、お目通りにも出られぬ」
悦之進は、裏庭の石井戸のほうへ歩いて行った。
手足の泥など洗い、髪も直して身なりをととのえるつもりらしい。
「心得た」
気がるに、鹿野文八は、奥へ駈けて行った。
そのあいだに、悦之進は、顔を洗い、口をそそぎ、髪のみだれも直していた。
衣服をととのえてから、悦之進はまたそっと、友にたずねた。
「今朝ばかりはついお側のご用を欠いてしもうたが、ご隠居さまのごきげんは悪くはないか」
「いや、べつに……。何ごとも平素とすこしもお変りは見えぬ。……だが、貴公のすがたを見ると、あいての者と、行き会ったかのように察しられるが、追いついたのか、下手人をひとりでも、捕えたのか」
「……いや。……いや」
何をきいても、悦之進は顔を横にふるだけであった。
その悲痛極まった面色は、あまりに追究すると、ついには悲涙をすらたたえそうに見えたので、文八も問うことをやめて、黙然、相対していた。