Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

Read 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,260 characters · 418 screens

Aozora Bunko

また、その日のお客、九条家の諸太夫や、閣老の阿部豊後守、中山遠江守、ほか親族方も、別室の饗応に立って、あとにはわずかの家臣だけしか見えなかった。

一番の能には、絶倫な精力をついやすものとは、観るだけしか知らない者でも聞いているので、きょうの老公の舞いぶりを見て、その健康を祝しあう声に満ちていた。全藩の家族が、一家のように、中食をとりながら、そのはなしで持ちきっていた。

事実、非常なる気力と体力を消耗するにちがいない。老公は、楽屋に入って天冠をとらせ、上の古代紗の舞衣をぬぐと、ややしばし、床几に寄ったまま、大きな呼息をついていた。

「水を」

と、求めると、鏡の間のひかえから、佐々介三郎、つと寄って、盆を捧げた。

それへ、手をのべながら、

「水か……」

主従は、眼を見あわせた。

何かに、はっとしたように、介三郎は老公が干した器を盆にいただいて、ふたたび控えに退がった。

「おつかれにございましょう」

紋太夫が、それへ来て、平伏する。ほかの家臣も、ぞろぞろと並び出て、同様に、老公の疲労を気づかっていう。

「さしたる事はない」

平常の呼吸にかえっていた。手ずからそっと襟や額の汗をぬぐう。