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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
Read 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,260 characters · 418 screens
にらみつけているまに、又四郎のほうは、笑いを浮べているではないか。その顔にはまたなんの邪心もみえない。
「おい、林助え。どうじゃあ」
あばたの一つぶ一つぶがみな笑っているような面をしゃくッて、又四郎はささやいた。
「どうじゃ林助。おれといっしょにやらんか。貴さまの心根を、しかと、この眼が見とどけて、相談するのだ」
「……やらぬかって? なにを」
「老公のおん為に、いのちをさし上げちまうのだ。亡父の卜幽がいただいたご恩返しは、それしかない」
「……?」
「いやか」
「わからない、わしには。老公へいのちを上げるなどということは、日頃のことで、ちっとも、改まったはなしじゃない」
「む、む」
鼻のまわりを、くしゃくしゃにして、又四郎は、狆みたいに笑った。
「偉い。やはり老公のお側にいるだけのものはあるぞ、貴さまは。――その通りだ。おれの口が足らなかった」
頭を下げて、
「いまのままで抛っておけば、きっと水藩は滅亡に瀕する。老公のご安全すらおれは疑っているのだ。のみならず、老公がご一代をかけ、また藩の財力をかたむけたご事業は――あの大日本史の完璧は、まず難しい。幕府の手で、いままでのものは湮滅され、これからの仕事は、弾圧されるにきまっている」