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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Read 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,213 characters · 325 screens
わしの蔭に添って付いて来い」
「しかし、或いはもう今頃は、郁次郎殿をひき出して、刑刀の錆としてしまったかも分りませぬ」
「そんなはずはない! そんな理屈はない」
「でも、吟味はすべて、江の島の方で済まし、自白の口書まで取った上に護送したのでございますから」
「その遣り口からして言語道断。たとえ、伜の自白があろうとも、あれは、わしが血をわけた子だ! あれの五体に盛ってある血は、父たるこの江漢が誰よりもよく知っているのだ! さ、一刻も、こうしてはおられん、加山、町へ出て、馬をさがせ」
ひらりっと、愛縄堂の中へ駈けこんだ老先生は、若者のごとく、袴の股立をからげ、鞭を咥えて、そこから走りだした。
わが子よ! 待て!
父は今行くぞ。――側へ、行ッてやるぞ。
おまえの血は父の血だ。わしはおまえに兇悪な血を頒けたとは信じない。
もし! わしがおまえにそんな悪の血を生みつけたとすれば、この父も、獄門の根に坐って、わが子の罪に殉じて舌を噛む。それが、社会へ対して、当然なるわしの申し訳だ。
だが、おまえはわしの子だ! わしは、わしを信じる如くおまえの正義を信じるよ!
待て! 父は今行くぞ。