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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens

Aozora Bunko

こう叫んで身構えした。

「何を! ……人違い! ……何を、此奴……あッ、これは人が違った!」

「覆面でのうて編笠じゃ! ……が、しかし浪人らしい」

「さよう拙者は浪人でござる。……しかも猫の蚤とりなどをいたす、しがない身分の浪人でござる」

その武士は鵜の丸兵庫であった。

昼から猫の蚤とりに出、商売を仕舞ってこの道を通り、吉野屋へ帰って行く途中なのであった。

「ははあ貴殿が蚤とり武士で」

と紀州藩士は眼を見張って云った。

「蚤とり武士の噂なりや、われらも以前より承わりおります。ははあ貴殿が蚤とり武士で」

「ところで」

と兵庫は怪訝そうに云った。

「拙者に不意に切ってかかられ、辻斬りの悪漢と仰せられたが、いかなる仔細でござりまするかな?」

「実はな、あるいは貴殿においても、噂ご承知かと存ずるが、顔に痣のある浪人で、うしろ斬りの悪剣を使い、辻斬りいたす者城下に現われ……」

「おおその噂でありましたら、拙者においても承知いたしております」

「その辻斬りの悪漢に、たった今そこで逢いましてな、残念にも一人の同僚を斬られ……」

「それはそれは残念至極」

「で、其奴を追っかけて、ここまで走って参りましたところ、貴殿に突然逢いましたので……それで粗忽にも人違いいたし……」