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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
柵、櫓、幕、陣小屋。たちまちそこは火の海となり、官軍はぞくぞく大津、坂本方面へと退却し出した。しかしこのむりな突破に払った足利方の損害は寡少でない。直義が行くところ、その戦場はいつも余りに烈しく余りにも血なまぐさい。
時に、この十一日。
一方の尊氏軍は都の西から入洛して、洞院ノ公賢の空館を、仮の本営とさだめていた。
同日、こんな事件があった。
尊氏もまだそこへ床几をさだめたばかりの混雑最中に、
「申し上げまする。――結城太田ノ判官親光が降参の由を申して、そのおとりなしを、かねて親しい大友左近将監貞載まで願い出ておりますが、いかがいたしたものかと、大友よりの問い合せにござりますが」
と、営門の将から伺いを立てて来た。
折ふし――降参ノ輩、注スルニ暇アラズ――の状だったが、親光といえば、東北の大族結城宗広の子である。またとない者だ。尊氏はすぐ大友に伴れてまいるようにと、いいつけた。
その伝命で、大友左近将監は、すぐ親光をつれて陣所を出た。そして樋口東ノ洞院の小川べりづたいに来て土橋を越え渡ると、大友が言った。
「はや、そこが御門前。法なればお腰の刀をお預かり申したい」