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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「して?」
と、尊氏はすぐ、
「明石の、何処へ」
尼へことばを向けかえた。
「明石の浦に、和歌のお師、冷泉為定さまの古いお家がありますので」
「はて、為定どのは、とうに亡きお方だが」
「いえ、幾たりとなく、歌の同門たちが、早くから戦を避けて住もうておりまする。わたくしたちも、覚一がお覚えをうけた東宮の御門や女院さまにおすがりすれば、身の無事はえられましょうが、覚一はそれを好みませぬ。またふと、巷で行き会うた右馬介も、明石へ行くことがよいとすすめますゆえ、ならばと、思い切って都を出て来たわけでございました」
「なに。巷で、介に行き会うたとか」
「はい」
「いつ、どこで」
「つい都を離れる前の日ごろ。嵯峨野の辻で」
「介のおる所を、その折、どこか聞かなんだかの」
「双ヶ岡のさる法師の家にいて、小右京さまと共に、誰やら申す元お公卿の僧を、懸命に毎日さがし歩いているとのことでございましたが」
「ああ、まだ日野資名どのに会えずにおるのか。……いや何」
と、急に語尾を消して、陣幕の上にうすらいで来た空明りへ顔を上げた。
「おう、はやまもなく朝が来よう。朝ともなれば、たちまちここは戦場のちまた。