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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens

Aozora Bunko

尊氏は無言のまま拝受してあとへさがった。そして、もいちど奉書を押しいただいた上で畏る畏るひらいてみた。

月のひかりに紙の白さがなお白かった。光厳(先の帝)の綸旨には、

義貞と与党一類を誅伐して

天下平穏の来らん日を

一日も早かれと

汝の忠誠に待つ

という意味のものだった。

これによれば、相手は大覚寺統でもなし後醍醐でもない。義貞こそが当の敵だ。そしてこの綸旨に敵対する義貞は、やはり朝敵逆賊の名をまぬがれえないことになる。

尊氏も、ここに錦の旗を持った。すでに名分においては同等な立場となった。ただ錦の旗と錦の旗。天下の人心が、そのいずれを選ぶかだけにある。

「直義」

尊氏は、そばへ呼んで。

「賜わった院宣は、そちも拝読しておくがよい。そしてすぐ全軍の船へつたえろ。終ったらすぐ纜解いて、筑紫へくだるぞ」

直義は、かしこまって、親船のみよしから大音声で味方へ告げた。

「聞けよ人々。新院光厳の御使より、ただいまわが足利党へ、天下平定の綸旨がここで降ったぞ。――義貞一類の徒を誅伐して、世のため、忠誠をぬきんでよとの院宣だ。――そのしるしをここにかかげる。仰ぎ見ろ味方の衆」