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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
もちろん、総大将義貞にすれば、理由はあったことであろう。それは尊氏の筆になる正成宛ての密書だといわれている。
しかし、嫌疑はすでにはれているはずだった。それが尊氏の偽計であったことは、降参の将の談話で、そのご証拠だてられており、検断所の公卿裁きでも、
ほかからも同文の書があらわれたゆえ、あれはおかしい――
といわれているのだ。にもかかわらず、義貞だけは、それの訂正も声明していず、さらには、二次の発向にも、ここへは何らの沙汰さえまだ来ていない。
次の尊氏追討は、当然、山陽九州への出兵なので、すべて命は武門の大将一司令下にゆだねられる。楠木といえ義貞の命によらねばうごけないことなのだ。
「左中将どのへ、今日は親しくお会いなされましてございまするか」
やがて室に灯を見ると、左近は案じ顔の下から、正成へそっとたずねた。
「いや、会えなんだ」
と、正成は、これは正成のもちまえだが、口おもたげにぽつんと答えたのみだった。
――これはまずい、と爺の左近はすぐ覚ると正成の気色を見てたちまち話の穂をかえ。
「――そうそう。ひる、おるす中に、常陸からのお飛脚がまいっておりまするが」