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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「儲かってたまるまい」
「正直、こんな景気がもう十年もつづいてくれるようにッて――ごらんなすって、あの通り神棚へお神酒を上げて朝夕祈ってるんですよ」
「ははは。たまらんなあ、そう祈られては。ここらだけではあるまいが、住吉、堺、そのほか諸所の鍛冶屋千軒、具足師すべてが、みな家蔵たててゆく一方、天下の武者は、殺し合いに殺し合い、やがて死に尽してしまうだろう」
「なアによくしたもんで」
と、鳶七は、妾らしい女が運んできた膳部の盃をさっそく取って、右馬介へ酌しながら、
「いくらでも、あとから人だねは尽きませんしさ、それにだんなの前ですが、武家もお公家もあんまり悧巧じゃありませんからね」
「ひどいやつだな」
「だって、だんなはもう武家をお廃めなすったんでございましょ。……それとも」
と言いかけて、
「おい、あっちへ行ってろ」
と、鳶七は急に、そばにいた女をあごで追いやった。
「だんな」
「何だ」
「ほんとのことを仰っしゃいよ。鳶七がこうなったのもあなたのお蔭だ、忘れちゃいませんぜ。――六年前、ここの具足師長屋は柳斎だんなの持ち物でしたよ。それが六波羅滅亡の兆しと一しょに、だんなはここへ戻らず仕舞い、あとはごっそり鳶七が貰ってしまったというわけでさ」