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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
すぐ気づかれて、
「しゃっ、小癪な敵」
と、大隅の兵は、朝討ちの奇功をあげないうちに、取りまかれてしまった。
これに気づいた今屋敷方面の足利直義は、
「大隅を討たすな」
と、急に、助けの兵を突貫させた。――わああっと、それの野谺を機に――様相はこの一角から激変した。
「一方の大将は尊氏の弟、直義とみえまする」
と、聞いた菊池武敏は、
「のぞむところの敵」
と、彼も自身、陣頭指揮にあたりだした。
名のりかけて――将と将との一騎打ち――といったような古風はもう廃っている。けれど首将みずから剣槍の中を駈けあるき、歩兵や騎兵を叱咤し廻る戦闘ぶりに変りはなく、武敏の手にある一槍もすでに血ぬられて、
「ひとりも生かして返すな」
と、その包囲力は直義をつつみ、さらに麾下の人数を寸断していた。
助けに来た直義も、果然、ここで苦戦におちた。
「あれよ。頭ノ殿があぶない」
足利方は、動揺した。大きな作戦の狂いでもある。
不用意に敵へ迫った大隅や直義らの兵は、洲や水に、後ろを断たれ、いわば死地の孤軍となった形なのだ。
「時を措いては」
と、少弐の兵、大友の部下、宇都宮弾正らも、自陣をすてて、救援にはせつけた。