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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
備前児島
の湾内についた。
ここは備前佐々木党の拠地である。加治、倉田、飽浦、田井などの諸党に迎えられて、尊氏は加治安綱の邸に入った。
久々にて御風呂など
おくつろぎあり
折ふしまた
その夜の満月に
黒雲二た筋
引渡して見えければ
軍勢みな合掌して
しばし拝し奉る……
とは、当夜の記録にあるところで。――まんまるな月に、二タ筋の黒雲がたなびき、その様さながら、足利家の軍旗二引両の旗のようだったので、一同おもわず合掌した――との情景が、いかにも目にみえるようである。
あくる日だった。
加治安綱が、おそるおそる尊氏の前へ出て。
「昨夜は夜すがらな兵どもの騒音……。さだめし、お眠りづらかったでございましょう」
「いや、よく眠った」と、尊氏は気にもしていず。「やはり浪枕よりは、陸の寝心地の方がずんとよい。物音など、何も知らなかったわえ」
「じつは、ここより遠からぬ所に、宮方の児島三郎高徳なる者がおりまして」
「ム。千種忠顕の手について、去年、洛中の合戦でもよう働いたあの高徳か」
「以後、国元の熊山に帰ッて鳴りをひそめておりましたが、下御所(直義)の大軍が、はや福山の城(備中・倉敷の西北)にせまッたのを見て、高徳らは、しょせん、阻め難しと見たのでしょう。