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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens

Aozora Bunko

しかも静かに、人知らぬまのように、この菊水の一勢は、都のひるをあとに、西へ立って行った。

この二十一日の朝――

正季は、枚方から、淀川を北へ、渡っていた。

兄正成よりも二日遅く、彼は河内の赤坂を立った。

それというのも、正成の出陣までに揃う予定数だった領下の諸武士が、意外に集まりがわるく、その糾合に手間どっていたためにほかならない。

が、それにしてさえ、なお四百余人――五百に足らぬ兵しか応じて来なかった。正季は腹をたてて、それらの卑怯者を、後日、きっと思い知らすぞと、ののしッたが、いまはそんな処置をとっているひまさえない。

「いや、龍泉どの。これでよいのだ。集まるほどな者はみな集まっておる。決して来るべき者が洩れたのではない」

松尾刑部季綱は、そういって、なぐさめた。

元々から、楠木領として、楠木家の召集しうる動員力は、せいぜい千二、三百人にすぎないのであり、赤坂城の合戦から千早籠城のさいに見ても、実勢力の限界は、わかっていた。

それが、所期の予定数よりもはなはだ不足に思われたのは、建武の恩賞で楠木家の領地も、河内和泉へわたって、急に大きくなっていたからだ。