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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「はや、聞いたの」
「じつは心がかりのまま、昨夜、み幕舎の外にいて、委細は伺うておりました。……よほど私からも、共々お願いをと、疼きおりましたが、じゅんじゅんたるお諭し。しょせん、うごかし難いお心と察しまして」
「ならば、くわしくいう要もない。正行はよう得心した。さっそく今朝、帰してほしい」
「ぜひもございませぬ。では、たれかを従者につけて」
「いや正行のみならず、これなる兵簿のうち、およそ三百余人、正成がそれぞれの名の上に印しておいた。それらの者も正行に添えて、郷里へ帰せ」
「え?」
正季は、簿を受け取って、仔細に見てゆきながら。
「兄上、これは総勢一千二百余人のうち、四分ノ一弱、なんでお返しなされますか」
「正成が亡きあとは、旧領はおろか、河内の寸土を保つのさえ容易でなかろう。また正行のためにも、しかるべき者、いくらかは残しおきたい」
「それにしても」
「いやなお、み戦のためにもあらず、正成に殉ずるでもなく、領主の命ゆえと、すすまぬながら、ぜひなく応じて来た将士もある。それらの者とはここで別れるに如くはない。今日以後、正成と連れ立つ者は、さいごまで、正成との同行を悔いとせぬ者だけにかぎる。