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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
鉦、鼓、ささらの如き打棒、あらゆる鼓舞の殺陣楽が、彼のお座船ばかりでなく、定禅やほかの船上でも狂気のようにとどろき鳴る。
しかし、そこには、思いのほかな大兵がいた。
新田一族の、大館氏明、宗氏の手兵三千が、あらまし、密生した小松原のかげに潜んでいたのである。
そのうえ、駒ヶ林から浜づたいに駈け慕ってきた騎馬隊があり、また、後詰には、二本松の義貞の本陣からも、経ヶ島附近にある脇屋義助の陣からも、たちまち、これへいくらでも応援が可能であった。
「退けッ。退けい」
俄に、督戦の乱声は、退き鉦にかわっていた。
序戦まず第一回の敵前上陸は、むざんな失敗に帰したのである。――陸上へ躍りあがったものの、新田がたの重囲に持ちこまれて、あなたこなたで、みすみす討死をとげてしまった者、二百余人。――いわば尖端を切った一船隊は、まるまる殲滅されて退いたのだった。
もちろん、足利がたの浜の手、少弐頼尚の一軍は、すでに駒ヶ林へその先駆を突ッかけて来、直義の本軍も、西国街道を、驀進していた。だが正面には、二本松を中心とする重厚な鉄の陣地、新田義貞の主軍がある。
戦機。――
それはいま、午前十時ちかい天地にしいんと孕まれていた。