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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「ここでの退き貝は敵に気勢を揚げさせるばかり……。そちは馬をとばして、味方の陣頭にある江田行義、世良田兵庫、篠塚伊賀、額田為綱、綿打ノ入道らに、布令まわれ」
「はっ、なんと?」
「義貞はここの旗本、細屋、大井田、烏山、羽川、一の井、籠守沢などの手勢すべてをひきつれて、一せいに生田か御影あたりまで陣を退く」
「えっ。御退却で?」
「いや、退却でない。尊氏めを追ッかけるのだ。――あれ見よ、尊氏のおる水軍の一群は、遠く、こっちの後ろへ廻らんとするらしく、生田、御影の辺へいそいでおる」
「しゃっ、あれですか」
誇らしげに、偽の錦旗二た旒を翻してゆく一船こそ、尊氏が坐す親船。――以下、千余艘とみゆるあの大兵が、わが後ろへ上陸ったら、味方は窮地におちいるほかないぞ。――それゆえ、義貞は陣を転じて、尊氏の上陸を迎え撃つ」
「して、先陣にある方々は」
「徐々に、義貞のあとを慕って、退がれと申せ」
「では総勢、二本松を捨て去るのでございましょうか」
「そうだ。すでに賊将尊氏は前面にいない。が、全力を向けて尊氏を撃たねばならん。あとの直義や筑紫、四国勢などは、物のかずではない。はやく行け。