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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
年暮の町では、これらの好影響もあり、また余りに抑圧された人間欲の反動からも、これまでにない活気と賑わいを見せていた。
すると、ちょうど師走二十日の夕方だった。――どこからか来た一駄の酒商人の者と、花山院の警固小屋の番士らとが、そこの門前で、何やら物議をかもしていた。
「へい。ですが、てまえは」
と、酒商人は、ひたすら頭ばかりさげていう。
「こちらがどんな御事情か、何も存じて来たわけではございません。ただ届けろと申されたまま、お届けに上がったまでで」
一斗入りの酒瓶五個、荷駄につんで、花山院のお台所まで届けておけと、かねも先払いで貰っているというのである。
警固の武士どもは、しきりに鼻をヒコつかせながら、その馬の背を巡ッてみたり、また酒商人の風態を下から見あげて。
「きさまは、どこの者と言ったッけな。どこから来たんだ」
「それは、さきほども」
「ええい。訊いたら答えろ。よけいなこと申さずと」
「石川からまいりましたンで」
「河内のか」
「へい」
「散所民の多い所だな」
「てまえは、散所民ではございません」
「たれが散所民といったかよ。あのへんでは、寺でも大量に酒を造るそうだな。