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やそうざっき・やちょうざっき
野草雑記・野鳥雑記
柳田 国男
Read 野草雑記・野鳥雑記 (やそうざっき・やちょうざっき) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 144,016 characters · 284 screens
家を移した当座の数年は、二階の寝床から遥かに多摩川対岸の岡が見えた。その頃はまだ眼もよかったので、いつとなく森や樹木の形に親しみをもち、何度か目標をきめて川を渡って訪ねて行ったこともある。西の窓からは国境の連山がよく見えて、右の端は秩父の武甲山に大菩薩、一度相模川の流路でたるんで、道志・丹沢から大山の尖った峰まで、雪が来たり雲がかかったり、四季時々の眺めには心を惹かるるものが多く、小鳥の去来ということも、終始これと結び付けて考えるようになっていた。それが一方は近くに高い家が建ってたちまち見えなくなり、一方は樹木が一体に成長して、僅かに葉が落ちてからちらちらと隙見をするだけになった。南の正面には高い松の木が二本あって、春は黒鶫や小綬鶏が来て啼いた。二本合せると誠に好い恰好で、月があの方角から出るのだったらなどと評判をしていたが、ある年の火事に遭ってその一本が枯れて伐られ、残りは一向にくだらぬ木になり、鳥もまた段々来なくなった。「たけに草」の目の覚めるような美しさを見せた西隣の空地は、ほどなく土が古びて再び芒に占領せられ、今年はいよいよ隣組が開墾して大根を播いてしまった。