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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 157,440 characters · 313 screens
「――」
「銭形の親分は、お銀さんの酌であんなに落ちついて、好い心持そうに飲んでいらっしゃるじゃありませんか」
「それがどうした」
八五郎はまだ紛々としてねばっておりますが、お楽は攻め手を変えて執拗に絡みつくのです。
「八」
「ヘエ」
いきなり隣りの部屋から声を掛けたのは平次でした。
「お前は帰れ帰れ、もう用事はねえだろう」
「ヘエ」
八五郎の器量の悪さ。
「それ御覧なさい、到頭銭形の親分に叱られたじゃありませんか。さア、思案も勘考も時によりけりよ。ねばればねばるほど、八五郎親分は間抜けに見えるじゃありませんか」
「何?」
「そんなにとんがらずに、一しょに退散しましょうよ。その代りお供はこの私、少し役不足でも何処へでも参りますよ。口説こうと、かじりつこうと、御自由になるわ、いっそもう、殺して貰おうか知ら」
お楽はもう一度、八五郎の首っ玉にかじりつくのです。
首領の妻
八五郎とお楽の二人が、揉みに揉んで出かけた後は、嵐の後のような静けさでした。行燈の燈心がジーと油を吸い上げる音が聞えて、庭では夏の蟲が、今宵一夜の恋のために、命を限り唄っております。
「ま、何という騒ぎでしょう」