Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
ものの五分間と立っていられない。
船室でぬくもり直す。珈琲をもらい、新聞にも倦むころ、やっとOさんが食堂へ誘いに来る。嘉治さん健吉さんも、卓に揃う。
食堂は、閑散だった。年の暮の別府行きらしい。船長と雑談。部屋へもどると、あとからボーイさんが型のごとく、画帖、色紙、硯箱を持参に及ぶ。
これは戦前の緑丸、紅丸の時代から瀬戸内航路の関所手形と決まっていたもの。政界、財界、芸能、学界、文化の面などで、およそ世に虚名を売った人間は、当然、いんぎんなる徴墨吏の下に、虚名税を収める義務があるみたいな習慣になっている。
もっともこの瀬戸内は、つい三、四百年前まで、因ノ島、塩飽などの島々に、村上海賊将軍以来の、海の顔役がにらんでいて、“帆銭”とか“潮道券”とかいう私税を徴発し、ただは通れない所だった。それを思えばいと易きこと哉である。
中世日本の瀬戸内は、ほとんど、魔海視されていた。聖武、光仁帝の大昔から、「南海ノ賊大イニ乱ル」という公紀が見えない時代はない。それも頻々、幾世紀にもわたってである。源氏代々の将も、平家代々の者も、たとえば正盛や忠盛や、清盛の若いころまで、「――南海ノ賊乱ヲ平定ニ征ク」