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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
の朝命をうけていない者はない。
その南海なるものが、ゆうべ寝て通った燧灘や、けさの船窓に眺められる平和な島々なのだから、今昔の感というよりも、何かおかしな気がしてくる。思うに、都の藤原貴族からは、海賊と見えたのだろうが、この島々から都を見れば、幾世紀、朝廷を擁して、栄花物語的な世襲を固守していた中央の貴族圏などこそ、太い料簡の輩であり、こっちが海賊なら、やつらは陸賊だと、罵っていたかもしれない。
船窓をよぎる無数の大島小島で、ふと思い出したのだが、島の漁村の人には、田井、佐波、分利、勝尾、岩志などという姓がずいぶんあるそうだ。島の小学校を参観した時、笑いたくなって困ったという人の話である。そんなところに、王朝期以来の海族の名ごりが、まだほんのりと島々に遺っているらしい。
話はとぶが、日本人の名が、勿体ぶってきだしたのは、仁明帝(西暦八三三年)以後で、それ以前には、なかなか愉快な名が多い。
蘇我ノ蝦夷、平群ノ鮪、蘇我ノ赤魚、押返ノ毛屎、阿曇ノ蛍虫――などはまだよいが、巨勢ノ屎子という女性がある。佐伯ノ伊太知とか、大伴ノ鯨、凡ノ黒鯛などは史上にも見える人物だし、丹念にさがせば、そんな類の名は、まだいくらでもあるだろう。