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ぜにがたへいじとりものひかえ
鬼の面 ――銭形平次傑作選3
野村 胡堂
Read 鬼の面 ――銭形平次傑作選3 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,312 characters · 57 screens
「主人の言い付けだから、仕方ありませんよ。尤も、その代り旦那に一分貰いました」
「そいつは大した褒美じゃないか。それからどうした?」
「昼の仕度にかかったのは、それから間もなく、花見弁当があるから、お茶をわかせばよかったんで、お勝手へ行って仕度をして居ると、旦那はいつもの通り、お仏壇の前で、お経が始まりました。それはまた長いんです」
「フーム?」
「四半刻も経ったころ、浅草寺の昼の鐘が鳴りました。ど、どーんと」
「何んだえ、それは?」
「鉄砲の音のようでした。驚いて音のした方へ飛んで行くと、川の方へ向いた部屋は煙硝の匂いで、お仏壇の前には、旦那がこんな具合に」
「倒れて居たというのか。――何んにも言わなかったのか」
「何んにも言わなかったようです。すぐ死んでしまったんですもの」
「待て待て、少し見て置きたい」
平次は小僧の伊佐松をそのままにして置いて、廊下の先を覗いて見ました。廊下を距ててそこはもう、義弟の伯次の部屋で、よく片付いており、窓から顔を出すと、鼻の先が大川の水、ちょうど花時の真昼の引汐で、底が見えるほどよく澄んでおります。隅田川がドブのように濁った今日とは違って、いろいろの物語に残っているように、その頃は思いのほかの綺麗な川だったのです。