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ぜにがたへいじとりものひかえ

鬼の面 ――銭形平次傑作選3

野村 胡堂

Read 鬼の面 ――銭形平次傑作選3 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,312 characters · 57 screens

Aozora Bunko

六

「伯次さんの部屋の窓際にも、その線香の灰見たいなものがこぼれて居るようだが」

「そんな事もありますでしょう。線香の灰は風が吹けば飛びますから」

「そう言ったものかな」

平次は併し、寮番の喜八爺の説明で、だいたいは堪能した様子です。

六

寮番喜八といっしょに向島へ行った平次は、案内の百姓に導かれて、綾瀬川寄りの流れの岸に向いました。

藪の深いところ、流れを挟んで一パイの人だかりですが、土地の御用聞が、ともかくそれを追っ払って検死を待っております。

「銭形の親分だ、――退け退け」

そんな騒ぎの中、萌え始めたばかりの草の上、藪を背負って、虚空をつかんでいる死骸を見て、平次も息を呑みました。三十七八でしょうか、滑かな顔、整った目鼻立ち、なかなかの良い男ですが、苦悶に歪んで、おそろしい悪相です。

噛み締めた口の隅、血泡を吹いて居るのや、紫色に変った顔から喉を見ると、間違いもなく猛毒にやられたものでしょう。田圃の中の流れの岸で、たった一人で毒死しているとすれば、その原因は、側に転がっている、見事な瓢箪の中味の外はありません。

平次はそれを取上げて、中を覗いて見ましたが、よく呑み干して一滴も残ってはいず、懐紙を出して、その上へ瓢箪を逆様にすると、わずかに一滴、二滴、紙の上に血のように滴るものがあります。