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ぜにがたへいじとりものひかえ
鬼の面 ――銭形平次傑作選3
野村 胡堂
Read 鬼の面 ――銭形平次傑作選3 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,312 characters · 57 screens
二
八五郎もさすがに匙を投げてしまいました。
二
八五郎が、向島の寮から帰ると、向柳原の自分の宿の前を素通りに、明神下の銭形平次の家へやって来ました。
「親分、今日は」
「今日はじゃないぜ。今日はこれで二度目だ。花はどうだったえ、向島の景気は?」
平次は相変らずの無精煙草に暮れて、自分の塒を動きもしなかった様子です。
「へエ、あっしが向島へ行ったのをよく御存じで?」
「縁側で背伸をすると、土手を歩いているお前の姿がよく見えたよ、――若い娘と摺れ違うたんびに、一々振り返って、惚々と眺めるのだけは止せよ。見っともないからな」
「冗談じゃありませんよ。明神下の縁側から向島が見えるわけが無いじゃありませんか」
「ハッハッハッ、むきになるなよ。お前の髷節は埃だらけで、襟には新しい妻楊枝が刺してあるし、まだ少し酒の気が残っているようだ。向島で飲んだ証拠だらけじゃないか」
「叶わねえな、親分」
八五郎は長んがい顎を撫で廻しました。
「ところで、向島の土産があるだろう。俺を誘い出した様子は唯事じゃなかったが――」
平次はもう八五郎の細工も、大方呑込んでいる様子です。
「お察しの通り、佐渡屋平左衛門の寮に誘われましたよ。