Japanische Klassiker mit Furigana
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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
Lesen Sie あなたも私も (あなたもわたしも) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.405 Zeichen · 263 Bildschirme
サト子が望んでいるのは、あの青年を岩棚のむこうの砂場へ連れこみ、潮がひいて、あすの朝、洞の口がまた水の上にあらわれ出るまで、赤ん坊のように抱いていてやりたいということらしかった。
「あたしにだって母親の素質があるんだろうから、こんなことを考えたって、おかしいことはない」
タクシが門の前でとまった。車を帰して、家のなかに駆けこむと、広縁から庭先へ出てみた。
集魚灯をつけた漁船は、まだ、あきらめずにやっている。漁師と若い警官のすがたは見えず、中年の私服が、ひとりだけ船にいた。
戸締りしたところを、のこらずあけはなすと、サト子は、ラジオのスイッチをひねった。
「フニクリ・フニクラ」という、どこかの国の陽気な民謡が、割れっかえるような音で流れだす。
洞の奥で、あの青年が、どんな思いでこのうたを聞くのだろう。
「いま行くわ」
急いで水着に着かえる。植込みの間を這って、庭端から石段を降りると、ひっそりと海に身をしずめた。
水がぬるみ、海は眠っている。波が動きをとめたので、湖水のように茫漠とひろがる月夜の海を、サト子は、のびたり縮んだりしながら、水音もたてずに洞のほうへ泳いで行った。