Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

Lesen Sie ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) von 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.905 Zeichen · 262 Bildschirme

Aozora Bunko

クモマツマキチョウ

この紫雲に閉ざされた神秘の絶境が、強くわれわれを魅惑した。この年私は、三枝、辻本の両君と、後立山から立山山脈の初縦走を企て、七月中旬、大出の猟師兵三郎を案内に、ほか四人の荷持ちと、籠川入りの扇沢を遡ったが、谷間の幕営に三日も降り込められた。

クモマツマキチョウ

これから何が出るか、どんな地形に阻まれ、いかなる出来事が起るか、想像や期待に心は昂ぶり逸やる。山人たちはまた大量の荷に気が重い。途中補給がきかぬからで、随分必要品さえ割愛したのだが。しかし十八日に雨が上ると弾むように未知の境に踏入った。登山路などは無く、小屋とは山人言葉で洞穴のことだ。扇沢の長い雪渓で、この時わが国初のピッケルが使用された。

登りつめたところは山人のいう棒小屋乗越で、向うは黒部谷から劔、立山。尾根を北へ、緩やかな山ひらは、偃松や白檜に縁どられたお花畠だ。と、私は息をのんで立ちすくんだ。早くも大変なものが現われたのだ。それは花とまがう一羽の美しい、しかも見馴れぬ蝶である。私は胸の鼓動を感じつつ、シラネニンジンの白い花穂に蜜を求める小蝶に、そっと近づいて観察した。明らかに粉蝶で、前翅の先端が鮮かな橙黄に染まって印象的だ。