Japanische Klassiker mit Furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lesen Sie つゆのあとさき von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.725 Zeichen · 148 Bildschirme
清岡先生にちがいないと、君江は耳をすまして表二階へ上る人の声を聞くと、清岡ではなくて、思いもかけない矢田さんらしい。矢田さんにはカッフェーのテーブルで、今夜はいくら誘われても先約があるから裏通りのおでん屋麗々亭へは行かれないがその代り少しおそくなってからならば、何処へでも行かれるから、行先を教えて先へ行って待っていて下さいと虚言をついて、それなり寐こかしを食わしてしまうつもりであったのだ。
矢田の方では君江のいう事を真に受け、最初の晩君江をつれて行った神楽阪裏の待合へ行き、二時過まで待ちあぐんでいたが、電話さえかかって来ないので、矢田は形勢を察し、十日ほど前君江がカッフェーの行掛けに自分を連れて行った三番町の千代田家の事を思合せて、万一まぐれ当りにさがし当てたら、腹いせに騒いで邪魔をしてやろうと、突然自動車を乗りつけたのである。門をたたくと直様女中が雨戸をあけたので、矢田は鎌をかけて君江さんはと聞くと、女中はてっきり君江の待っている旦那だと思込んで、
「奥様は先刻からお待ちかねなんですよ。殿方はほんとに罪だわねえ。」という返事。矢田は烟に巻かれて何とも言えず、おとなしく二階へ上り、帽子もとらず床の間を後に胡坐をかいて不審そうに座敷中を見廻していた。