Japanische Klassiker mit Furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lesen Sie つゆのあとさき von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.725 Zeichen · 148 Bildschirme
五
五
府下世田ヶ谷町松陰神社の鳥居前で道路が丁字形に分れている。分れた路を一、二町ほど行くと、茶畠を前にして勝園寺という額をかかげた朱塗の門が立っている。路はその辺から阪になり、遥に豪徳寺裏手の杉林と竹藪とを田と畠との彼方に見渡す眺望。世田ヶ谷の町中でもまずこの辺が昔のままの郊外らしく思われる最幽静な処であろう。寺の門前には茶畠を隔てて西洋風の住宅がセメントの門墻をつらねているが、阪を下ると茅葺屋根の農家が四、五軒、いずれも同じような藪垣を結いめぐらしている間に、場所柄からこれは植木屋かとも思われて、摺鉢を伏せた栗の門柱に引違いの戸を建て、新樹の茂りに家の屋根も外からは見えない奥深い一構がある。清岡寓と門の柱に表札が打付けてあるが、それも雨に汚れて明には読み得ない。小説家清岡進の老父熙の隠宅である。
初夏の日かげは真直に門内なる栗や楝の梢に照渡っているので、垣外の路に横たわる若葉の影もまだ短く縮んでいて、の声のみ勇ましくあちこちに聞える真昼時。じみな焦茶の日傘をつぼめて、年の頃は三十近い奥様らしい品のいい婦人が門の戸を明けて内に這入った。髪は無造作に首筋へ落ちかかるように結び、井の字絣の金紗の袷に、黒一ツ紋の夏羽織。