Japanische Klassiker mit Furigana
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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
Lesen Sie オリンポスの果実 (オリンポスのかじつ) von 田中 英光 (たなかひでみつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.277 Zeichen · 147 Bildschirme
その晩、B甲板の船室の蔭で、あなたが手摺に凭れかかって、海を見ているところを、みつけました。腕をくんで背中をまるめている、あなたの緑色のスエタアのうえに、お下げにした黒髪が、颯々と、風になびき、折柄の月光に、ひかっていました。勿論ぼくには、馴々しく、傍によって、声をかける大胆さなどありません。只、あなたの横にいた、柴山の肩を叩き、「なにを見てる」と尋ねました。それは、あなたに言った積りでした。柴山は、「海だよ」と答えてくれました。ぼくも船板から、見下ろした。真したにはすこし風の強いため、舷側に砕ける浪が、まるで石鹸のように泡だち、沸騰して、飛んでいました。
次の晩、ぼくが、二等船室から喫煙室のほうに、階段を昇って行くと、上り口の右側の部屋から、溌剌としたピアノの音が、流れてきます。“春が来た、春が来た、野にも来た”と弾いているようなので、そっとその部屋を覗くと、あなたが、ピアノの前にちんまりと腰をかけ、その傍に、内田さんが立っていました。
二人は、覗いているぼくに気づくと、顔を見合せ、花やかに、笑いだしました。その花やいだ笑いに、つりこまれるように、ぼくは、その部屋が男子禁制のレディスルウムであるのも忘れ、ふらふらと入り込んでしまいました。