Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ようねんじだい

幼年時代・晩夏

堀 辰雄

Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme

Aozora Bunko

そのうちにやっと母がそれに気づいて、私をあやしに来てくれる。酒臭い父もそのあとから私のそばにやってくる。そして、父はよく枕もとでお鮨の折などをひらきながら、「そんなことをするの、お止しなさいてば。……」と母が止めるのもきかずに、機嫌よさそうに私の口のなかへ、海苔巻なんぞを無理に詰めこむのだった。そうすると私は反って泣いていたのを見つかったことをてれ臭そうにして、すぐもう半ば眠ったふりをしながら、でも口だけは仕方なしにいつまでももぐもぐやっていた。……

私の知った最初の悲しみであった、そういう父母のいさかいが、どうかするとその翌朝になってもまだ続いていることがあった。

そういうときなど、私はすぐ胸を一ぱいにして、彼等のそばを離れ、こっそりと庭へ抜け出していった。そしてその一番隅にある、やっとその中に自分の小さな体がすっぽりとはいれるような灌木のかげに身をひそめて、誰にも見られぬようにしながら、一人で悲しんでいた。私はそうやって自分ひとりで悲しんでいれば、すべてが好くなると、なぜかしら思い込んでいた。そうしてそのために其処へ身をひそめただけで、もう目頭が一ぱいになって来るのを、やっと怺えながら、垣根の向うの、一面に雑草の茂った空地を、何か果てしなく遠いところのものを見ているかのように見ていたりした。