Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ようねんじだい

幼年時代・晩夏

堀 辰雄

Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme

Aozora Bunko

それは私自身だってかなりさびしい思いを持ってはいた。けれども、そんな大きな枯葉の目に立つほど溜っているような谷あいそのものも、なかなかさびしい場所であった。それが朴と云う木の葉であることを私は誰にともなく聞いて知るようになっていた。が、その朴の木にどんな花が咲くのかその頃の私は全然考えてもみなかった。――それが、いま見ると、夏の来るごとにいつもこんなに匂の高い花を咲かせていたものと見える。

「矢っ張、朴の花ですね。」そう私はこんどは確信をもって言えた。

「朴の花ですか?」深沢さんは鸚鵡返しに答えて、それからもう一ぺんその花を見上げながら言った。「いい花だなあ。」

私も妻もそれに釣られて、再び一しょにその真白い花をしみじみと見上げているうちに、私は不意とこの村のここかしこの谷あいに、このような花をいまぽっかりと咲かせているにちがいない、幾つもの朴の木の立っているさびしい場所を、今だって自分はひとつひとつ思い出していくことが出来そうな気がした。――そう思って、私はその頃自分の孤独をいたわるようにしながら一人歩きをしていたあの谷、この谷と思いをさまよわせているうちに、急に私は何かに突きあたったかのように、ついそこの谷の奥で山椒喰のかすかに啼いているのを耳に捉えた。